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広島地方裁判所 昭和53年(行ウ)3号 判決 1979年5月29日

原告 小島露

被告 廿日市税務署長

訴訟代理人 中路義彦 菅近保徳 外一名

主文

本件訴のうち、被告が昭和五一年五月二〇日付でなした原告の昭和四九年六月分にかかる物品税及び無申告加算税の賦課決定処分について、物品税額七、〇〇〇円、無申告加算税額七〇〇円を超えて取消を求める部分は、これを却下する。

原告のその余の請求は、いずれもこれを棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

一  双方の申立

原告は、「被告が昭和五一年五月二〇日付でなした原告に対する別紙(一)記載の各月分にかかる物品税及び無申告加算税の賦課決定処分をいずれも取消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求めた。

被告は、「原告の請求をいずれも棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求めた。

二  原告の請求原因

(一)  原告は、撮影用小道具の製造業者であり、写真撮影時のポーズをつけるための椅子及び腰掛けを製造してきたものである。

(二)  被告は、昭和五一年五月二〇日付で原告に対し別紙(一)記載の物品税に関する決定及び無申告加算税賦課決定の各処分(以下一括して本件処分という)をなした。

原告は、被告に対し右処分について異議申立を経た後、国税不服審判所長に対し審査請求したが、同所長は昭和五二年一一月三〇日これを棄却するとの裁決をなし、右裁決は同年一二月二三日原告に送達された。

(三)  本件処分は、原告が物品税法別表の第二種物品である家具類のうちのいす又は腰掛けを製造したとしてなされたものであるが、課税の対象となつた原告の製造にかかる椅子又は腰掛け(以下本件製品という)は、物品税法別表記載の家具類に該当しないか、仮に該当するとしても物品税法九条、同法施行令六条二号による非課税物品に該当し、したがつて本件処分は違法であるからその取消を求める。

三  請求原因に対する被告の答弁及び主張

(一)  請求原因(一)の事実のうち、原告が椅子及び腰掛けを製造してきたことは認めるが、その余は争う。同(二)の事実は認める。同(三)の事実のうち、本件処分の理由が原告主張どおりであることは認めるが、その余は争う。

なお被告は、昭和五一年一二月一一日付で別紙(一)のうち昭和四九年六月分について課税標準額を三五、〇〇〇円、物品税額を七、〇〇〇円とする減額再更正処分及び無申告加算税額を七〇〇円とする賦課決定(変更)処分をした。

(二)  物品税の課税対象となる物品税法別表の第二種物品である家具類のうちのいす又は腰掛けに該当するかどうかは、当該物品の性状、機能等から総合して判断されるべきところ、本件処分において課税物件とされた本件製品は、たとえポーズをつけるための小道具であり、撮影効果を高めるためのアクセサリー的なウエイトが高いとしても、構造的にはどこまでもいす又は腰掛けとしての形態及び要素を備えており、また機能ないし用途的にも結婚写真、見合写真等では坐つて撮影することも多く、いす又は腰掛けとしての役割を果しているのであつて、その性状、機能等からみて、明らかに物品税法別表の第二種物品である家具類のうちのいす又は腰掛けに該当する。

なお物品税法別表の第二種物品である家具類というのは、日常生活に使用される家具用道具のみならず、これに類似の性状、機能等を有するものをも含むのであつて、このことは第二種物品の家具類のいすのうち、診療又は理容の用に供されるものとして特殊な性状等を有するものが非課税物品とされていること(物品税法九条、同法施行令六条二号)からも明らかである。

したがつて本件処分は適法である。

四  原告の主張

(一)  家具とは、「日常生活に使用する通常の家庭用道具」であつて、物品税法別表の第二種物品である家具類というのも、右の意味における各種の家具を総称したものにすぎないと考えられるところ、本件製品は、安楽機能及び耐久性に著しく欠け、家庭用としては使用不能で、価格的にも高いことも相俟つて家庭用の物件としての需要はなく、又現実にも使用されておらず、社会通念からしても写真撮影業者の撮影用小道具として営業用専用のものとして取扱われており、取引上も家具製造業者とは別の専門業者が製作し、写真撮影業者のみが購入するもので、家具とは流通経路も違う。したがつて本件製品は物品税法別表の第二種物品である家具類に該当しない。

(二)  物品税法は、いわゆる奢侈品に課税し、個人の日常生活からみて必要以上に贅沢な品物を購入する富裕国民に最終的な租税負担をさせ、もつて課税の実質的公平を確保し、国家財源の確保をはかるものであるところ、「いすのうち、診療又は理容の用に供されるものとして特殊な性状等を有するもの」は非課税物品とされているが(物品税法施行令六条二号)、これは、物品税法の趣旨からして、贅沢品でない物品について課税しない一例にすぎず、結局業務上不可欠であり、かつその業務に専用の特殊な性状を有する道具は非課税とする意に解される。そうすると、本件製品は、「診療又は理容の用に供されるもの」と同等であつて、非課税物品に該当する。

(三)  いす又は腰掛けというためには、「座部分」又は「座部分と背部分」が存在するという物理的な構造要件だけでなく、安楽機能及び耐久性が要求されると考えられるが、本件製品は、写真撮影用の小道具であるところから、安楽機能及び耐久性が殆ど無視されている。したがつて本件製品は、いす又は腰掛けに該当しない。

(四)  なお仮に本件製品が物品税法別表の第二種物品である家具類のうちのいす又は腰掛けに該当するとした場合、これらに対する課税標準額、物品税額及び無申告加算税額がそれぞれ別紙(一)記載のとおりであること(但し昭和四九年六月分については、請求原因に対する被告の答弁及び主張(一)の記載のとおりであること)は、いずれも争わない。

五  証拠関係<省略>

理由

一  請求原因(一)の事実のうち、原告が椅子及び腰掛けを製造してきたこと、同(二)の事実、及び同(三)の事実のうち本件処分のなされた理由については、いずれも当事者間に争いがない。

しかして被告が昭和五一年一二月一一日付で、別紙(一)のうち昭和四九年六月分について課税標準額を三五、〇〇〇円、物品税額を七、〇〇〇円とする減額再更正処分、無申告加算税額を七〇〇円と変更する賦課決定処分をしたことも当事者間に争いがないところ、これらの処分は、いずれも原処分の効力を失わせて新たに課税標準額、税額を確定するものではなく、原処分の一部を取消したものに外ならないと解すべきであるから、原告がこれによつて不利益を受けることはなく、したがつて原告は、本件処分のうち昭和四九年六月分について物品税額七、〇〇〇円、無申告加算税額七〇〇円を超える部分の取消を求めることについては訴の利益を欠くものという外ない。

二  次に、原告の製造にかかる本件製品が、物品税法の別表の課税物品表における家具類のうちの「いす又は腰掛け」に該当するか否かを検討する。

(一)  成立に争いのない乙第二号証、いずれも乙第二号証及び原告本人尋問の結果により、本件製品と同種の製品を撮影した写真であると認められる甲第一号証の一ないし八、本件製品と同種の製品を利用して被写体(人物)がポーズをとつている状況を撮影した写真であると認められる甲第二号証の一ないし八、第三号証の一ないし六及び本件製品に用いられている脚部分と同種のものであると認められる検甲第一号証、第二号証の一、二、第三号証、第四号証の一、二、証人中石博已の証言、原告本人尋問の結果及び検証の結果並びに弁論の全趣旨によると、本件処分において課税の対象となつた本件製品の形状は、別紙(二)の<1>のないし<8>のとおりであること、原告は、本件製品を写真撮影業者のための、撮影時に被写体がポーズをとるための撮影用小道具として製造したこと、そして本件製品の構造は、大きく分けて、脚部分、台座部分、背あて部分の三つの基本的部分に分かれているが、その製造にあたつては、一般的に、第一にデザインが、次に移動性(軽さ)がそれぞれ重視され、強度の点は比較的軽視されていること、本件製品の脚部には栗材が用いられているが、強度の点については、別紙(二)の<2>、<4>、<6>ないし<8>の製品の猫脚とされている部分は、写真を豪華な感じに撮影できるよう年輪の線を出す工夫がされているため猫脚の先端部分が年輪に沿つて折れやすく、又猫脚の場合には、たいてい台座に猫脚を差込むようにして脚部分と台座部分を接合するため、その差込まれた猫脚のつけね部分が弱くなつて折れやすく、又猫脚でない別紙(二)の<1>の製品の脚部も、やはり台座とのつけね部分が弱く折れやすいこと、しかしながら本件製品は、いずれも、写真撮影用であつても、被写体(人物)が坐ることも予想されるため、これに耐えられるかどうか原告自身(体重約六〇キログラム)が本件製品に坐つたり、あるいはその上に立上つたりして、その強度を調査し、そのうえで販売されていること、なお別紙(二)の<3>及び<5>の製品は、その脚部は猫脚よりも強く、特に<3>の製品の脚部はかなりの強度をもつていること、ところで本件製品は、元来安楽性を指向したものではなく、特に別紙(二)の<2>の製品の背あて部分の上部には突起物もあつて、応接用の安楽椅子などと比較すると、安楽性の点で劣るけれども、一般の椅子に比較し、格別に安楽性に欠けるということもないことがそれぞれ認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

(二)  ところで物品税法の別表の第二種の物品の「家具類」とは何を意味するのかを検討するに、右別表の「課税物品表の適用に関する通則」によると、同表における物品の所属の決定は同表の各号の規定により、同表の各号の品目欄に掲げる物品は当該各号の類別欄に掲げる物品の範囲内のものとし、同表における用語の定義は政令で定めるとされており、物品税法施行令がその定義を定めるのであるが(同令一条二項)、同令においても「家具類」自体の定義を定めるものはなく、そして、法別表自体においても、第二種の物品の「時計類」において時計側等を含み、右別表における用語の定義を定める物品税法施行令の別表第一には、「家具類」のうちの寝台につき、運搬車、手術台、治療台又は整形台としての特殊な構造を有するものを含まないものとし、同じく「家具類」のうちのいすにつき、治療又は理容の用に供されるものとして特殊な性状等を有するものを非課税物品としているが、これらは、家具でないから寝台に含まれず、あるいは、家具でないから非課税物品である、というのではなく、前者については特殊な構造を、後者については特殊な性状等を有するからなのである。そうだとすれば、法別表において「家具類」というのは、その品目欄に掲げられた物品が、通常家具として用いられることが多いところから、「家具類」として総称されたものにすぎないと考えるのが相当である。

(三)  そうすると、本件製品が物品税法における課税物品に該当するかどうかは、本件製品が同法別表の課税物品表の「家具類」のうちの「いす」又は「腰掛け」に該当するかどうかによるのであるが、前記(一)に認定した事実によると、本件製品は、いずれも台座部分と背あて部分を有しており、しかも椅子としての機能を有するものであるから、明らかに右の「いす」に該当するものというべきである。

(四)  なお、物品税法は「特殊な性状、構造若しくは機能を有することにより、一般消費者の生活及び産業経済に及ぼす影響を考慮して物品税を課さないことが適当であると認められるものとして政令で定めるものについては、物品税を課さない」(九条)と規定し、これを受けた同法施行令六条二号は、「特殊な性状、構造又は機能を有することに基づき物品税を課さないこととされる物品」として、同令の別表第一の非課税物品欄に非課税物品を掲げ、「家具類」のいすのうち、診療又は理容の用に供されるものとして特殊な性状等を有するものを非課税物品としているが、右が限定列挙であることはその規定の体裁自体から明らかであり、これをもつて、「業務上不可欠であり、かつ、その業務に専用の特殊な性状を有する道具は非課税とする意」であると解するのは相当でない。

三  しかして、本件製品が物品税法別表の第二種物品である家具類のうちのいす又は腰掛けに該当するとした場合、これらに対する課税標準額、物品税額及び無申告加算税額がそれぞれ別紙(一)記載のとおりであること(但し昭和四九年六月分については、請求原因に対する被告の答弁及び主張(一)の記載のとおりであること)は、いずれも当事者間に争いがないから、別紙(一)記載の各年月分の物品税額及び無申告加算税額は本件処分(但し昭和四九年六月分の物品税額及び無申告加算税額はそれぞれ七、〇〇〇円及び七〇〇円と減額されたもの)のとおりである。

四  以上の説示によると、被告が原告に対してなした本件処分のうち、昭和四九年六月分にかかる物品税額七、〇〇〇円及び無申告加算税額七〇〇円を超える部分の取消を求める部分はいずれも不適法であるからこれを却下し、その余の本訴請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 森川憲明 谷岡武教 吉田徹)

別紙(一)<省略>

図<省略>

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